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教育心理学科 その他

山田美穂先生のテキサスレポート4

2017-04-24

テキサス大学で研究中の本学科の山田美穂先生からレポートが届きました。

 

今回はダンスセラピーを中心にお話しくださっています。

こんにちは。教育心理学科教員の山田美穂です。今回はセラピーの現場での学びについてレポートします。いま私はテキサスでダンスセラピーを中心に学び、研究をしています。この魅力と奥深さを少しでもお伝えできればと思います。

 

日本では(アメリカでも)よく知られているとは言えませんが、ダンスセラピー(ダンス・ムーブメント・セラピーとも言います)は、心理療法のひとつです。一般的な心理療法では、「ことば」を手段として、自分を表現し、自分の気持ちに気づいていきますが、ダンスセラピーでは、「からだ」を感じ、動かすことで、自己表現や自己理解が深まっていきます。「楽しく踊ること」だけではなく、「呼吸法」から「即興劇」に近いようなものまで、「こころとからだのつながり」に関係するさまざまな、本当にさまざまな技法があります。

 

とても幸運なことに、私はいくつかの場所でダンスセラピーを学んでいるのですが、その中の一つが、アルツハイマー型認知症の高齢者のためのダンスセラピーのセッションです。セラピストのヘザー・デイビスさんのもと、アシスタントのような立場で参加しています。

 

毎回、参加者は10人~15人ほど。「ダンス」といっても立ち歩きが大変な人も多いので、椅子を丸く並べ、座った状態が基本です。ストレッチや、みんなで風船を弾ませるゲームなど、運動や記憶の機能に障害があっても楽しめる活動をします。最後のフリータイムの頃には、気分もからだもほぐれてきて、立ち上がり音楽に合わせて踊る人もいます。

 

こう書くと、「プログラム」を用意して「それに従って」やってもらう活動のように思えるかもしれませんが、そうではありません。ヘザーさんは、一人一人をよく見て、全身で表現される気持ちを(やりたくない気持ちも含めて)受け止め、尊重していることを伝え、その人が安心してその人らしくいられる場を作っていきます。私はまだ毎回ドキドキしながら悩みながらの見習い状態ですが、ヘザーさんのかかわり方を見たり、終了後にあれこれ質問をさせてもらったりしながら、できる限り吸収しようとしています。

 

参加者は全員がアルツハイマー型認知症の患者さんです。前回のセッションのことを思い出せないこともあります。でも、何も残らないわけではなく、その人の中で、ヘザーさんや私との間で、グループの中で、一緒に動くことを通して積み重なっていく「記憶」があることが、その場にいると感じられます。そして、動き、音楽、なにげない会話などがきっかけになって、からだのどこかに眠っていた記憶や気持ちが表現されることがよくあります。

 

たとえば、なつかしい曲がかかると、口ずさみながら涙ぐむ人もいます。また、腕を動かすストレッチをしながら「なんだか海で泳いでいるみたいですね、どこの海でしょうね?」「ハワイの海がいいわね」と会話が生まれ、ハワイに新婚旅行に行った思い出が語られたりします。

 

あるとき、「眠いなあ」とウトウトしていた男性が、私の自己紹介をきっかけに、ふっと学生時代の話をしてくれました。驚いていると、すっと立ち上がり、私の手を取って一緒に踊ったことがありました。きっと学生時代にこんなふうにダンスを楽しんだんだろうと感じ、その思い出の登場人物になった感覚になりました。心に残っている思い出が、からだを通して再現されて、また心に収められていくという、大事な作業に立ち会わせてもらえたのではないかと思っています。

 

病状が進行していくことへの辛い気持ちが表現されることもあります。それはとても自然なことで、それが表現されるからこそ「セラピー」なのですが、私にとっては自分の課題を自覚する場面でもあります。少し激しい動きで表現されると、わわわっと戸惑ってしまうのです。これについては、自分自身の心とじっくり向き合って取り組んでいく必要がありそうです。

 

 

9か月間の在外研究はもうすぐ終了、テキサスレポートも今回が最終回です。テキサスの熱い風?を感じていただけたでしょうか。お付き合いいただき、ありがとうございました。