就実大学 人文科学部 総合歴史学科

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2023.12.12 

2023年度 就実大学史学会主催・公開学術講演会(袴田玲氏「ビザンツ帝国の宗教と人々」)をおこないました。

講演会

 2023年12月2日土曜日13時30分より、令和5年度公開学術講演会(主催:就実大学史学会)を開催しました。講師は袴田玲先生(岡山大学ヘルスシステム統合科学研究科・文学部講師)で、演題は「ビザンツ帝国の宗教と人々」でした。

 講演の冒頭に、演題にある「ビザンツ帝国」が高校の「世界史」の授業でどのように扱われているのかということに言及しながら、この「帝国」の概略をお話しくださいました。その際、1000年以上も続いたビザンツ帝国が教科書上では(いわゆる西ヨーロッパと比較して)表面的にしか触れられていないことを明示され、私たちは「世界史」を学び・研究する時、「誰からみた『世界史』なのか」ということを常に考慮に置かねばならないということを強調されていました。続く説明では、「ビザンツ帝国」という名称は当時のビザンツ帝国の住民によって使用されていたのではなく、1453年の帝国崩壊後に西ヨーロッパの人物によりそう名付けられたという説明され、歴史上の語句や用語の起源や使用方法の複雑性を目の当たりにしました。更に複雑なことはビザンツ帝国に住む人々の自認についてでした。古代ローマ帝国が東西に分かれ、西ローマ帝国は崩壊し、東ローマ帝国(つまりビザンツ帝国)は存続し、そこの人々は自らを「ローマ人」と称していました。つまり、ローマの制度的伝統とギリシアの文化的伝統を継承しつつ、宗教としてはキリスト教を報じていたということです。また、古代ローマ帝国時代にキリスト教の五大総大司教座が設置されていたことを踏まえ、コンスタンティノープルは「第二のローマ」としての自負のみならず、7世紀末の時点で唯一イスラーム勢力下にはいっていない東方キリスト教圏の総大司教座であり、そこを都に構えるビザンツ帝国は「キリスト教世界の盟主」と自認していたということでした。

 ビザンツ帝国で信仰されていたキリスト教は、西ヨーロッパで主流のローマ・カトリックとは異なるビザンツ正教ですが、そのビザンツ正教の歴史で一大事件と言えば高校の教科書でも出てくるほど有名な8世紀のイコノクラスム(聖画像破壊運動)です。講演の後半部分ではこのイコノクラスムの前提と経緯、およびその廃止、つまり聖画像の再容認についてお話がありました。『旧約聖書』では神の唯一絶対的性格、不可視性と超越性に依拠し偶像崇拝が禁じられていますが、キリスト教においては中世初期にイエスやマリアの聖画像は普及していました。しかし8世紀のビザンツ皇帝レオン3世は、おそらく対外あるいは国内の政治的な動機から、ビザンツ帝国において聖画像を破壊することを命じます。その約50年後に聖画像は復活するのですが、その際、聖画像を容認する派閥が論じた見解は非常に興味深いものでした。具体的には、聖画像を構成する物質そのものを崇拝することは偶像崇拝であり禁じられた行為であるが、聖画像を通じてそのさらに奥深くにある存在を思うことは、聖画像の先にいる神に思いをはせるということであり、それは相似的崇敬とみなされ容認されるというのです。このような聖画像復活を支持する論理は、神学的および哲学的要素に深くかかわっており、歴史学の枠組みを超えた内容でしたが、袴田先生は非常にわかりやすく説明してくださいました。

 およそ90分の講演のあと、質疑応答の時間が設けられました。在学生、学外からの来場者、教員から様々な質問が投げかけられました。袴田先生はひとつひとつ丁寧にお答えくださりました。予定通り15時半ころ講演会を終了しましたが、その後も先生のもとには来場者の方々が列を作って質問をしていた姿が見受けられました。

 当日は在学生・教職員のみならず、学外の皆様に多数ご出席いただきました。来年度以降も学術講演会に継続して参加されるよう願っています。

 最後になりましたが、講演者の袴田玲先生にあらためてお礼を申し上げます。最新の知見に基づく非常に興味深いご講演をいただき、ありがとう御座いました。

(文責:小林亜沙美)

 

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