2024.11.25
講演会
2024年11月9日(土)、D201教室にて史学会主催の令和6年度公開学術講演会が行われました。今年は、茨城大学人文社会科学部の松尾卓磨先生をお招きし、「近現代ロンドンの都市史と移民」というタイトルでご講演いただきました。
現代のロンドンの特徴として、20~30代の若者の社会増加による「都市の若さ」やイギリス国外にルーツを持つ人々が政治や行政の要職を務めている点、総人口880万人のうち白人系イギリス人が37%にとどまっている点などを挙げることができます。そのロンドンの南部に位置するブリクストンは、貧困の集積地やカリブ系黒人の集住地として捉えられ、スティグマ化されることもある一方で、「クール」や「ファッショナブル」という言葉で形容される側面もあります。こうしたロンドンやブリクストンの現状を踏まえて、本講演では、ブリクストンの歴史を辿り、同地域の特異な性格がどのようなプロセスで醸成され、またそれがどのように変質しているのかという点について、ジェントリフィケーション(地域の高級化)という現象に注目しながら解き明かすことを目指しました。
ブリクストンは、19世紀前半に郊外邸宅地として開発が始まり、19世紀後半には鉄道網の発達によって、過密状態であったロンドンの都心部からの移住が進みました。鉄道駅の周辺や未開発の土地に労働者階級向けの住宅が大量に建設され、役者や芸人なども居住する多様な社会階層をもつ「カオスな空間」へ変容していきました。
その後、1948年にカリビアン移民の流入が始まり、1950~60年代から多くのカリビアン移民が定着するようになりました。戦災復興による労働力需要の高まりやイギリス人労働者の就業水準の高まりによる労働力不足などを背景に、1948年の移民船到着を皮切りとしてカリビアン移民の流入が本格化し、彼ら彼女らは安価な下宿屋や住宅が多いブリクストンに集住するようになりました。
1970年代に入ると、ブリクストンでは経済基盤の脆弱化や建造物の老朽化などが社会問題となり、多くの課題を抱えるインナーシティとして捉えられるようになりました。そして、1981年ブリクストン暴動が発生し、貧困や差別といった構造的な問題を背景とした警察に対する黒人系住民らの怒りや不信感が顕在化しました。
こうした社会的な問題が顕在化した1980年代からブリクストンではジェントリフィケーションの兆候が見られるようになります。2000年代に入ってもジェントリフィケーションは続き、若年世代の増加や地価の上昇が確認されています。ブリクストンヴィレッジのように衰退状況にあった屋内型店舗群が官民協働の再建施策によって食通が訪れる消費空間へと再生された事例もあります。また、集合住宅の建て替えや鉄道高架下の再整備なども進められ、地域や消費空間(マーケット)の高級化が進展しつつあります。以上のように、ブリクストンは近代末以降、多様な人々の流入と空間の再編により、常に変化の波に晒されてきました。
講演終了後には、学生や教員から活発な質疑応答があり、そのひとつひとつに松尾先生から時間をかけて丁寧なご対応をいただきました。今回の公開学術講演会は、地理学の最新の知見を踏まえた非常に刺激的な内容でした。総合歴史学科の学生たちにとっては、普段の授業ではなかなか聞く機会のない内容だったため、非常に良い勉強になったと思います。
最後になりましたが、講演者の松尾卓磨先生にあらためてお礼を申し上げます。最新の知見に基づく非常に興味深いご講演をいただき、ありがとう御座いました。
(文責:中山)



