就実大学 人文科学部 総合歴史学科

2021.03.03 

【研究こぼれ話vol.007】歴史学とフィールド・ワーク

教員の活動

フィールド・ワークの話

総合歴史学科 教授 

賈 鍾壽 

 

 英語の「history」という言葉はギリシャ語の「historia」から由来し、古代ギリシャで「historia」という言葉を歴史という意味に使うまでにはかなり長い時期があった。初めイオニアでは神話まじりに昔の言い伝えを語るものを「logographia」と言っていた。ところが紀元前五世紀にヘロドトスが昔の人の偉業を伝えようとして、真実を求めて探求したものを自分の名で語るものを「historia」と言った。彼はペルシヤ、エジプト、アッシリア、小アジアの各地を歩いて見聞したものを書き記した。こうして自分で調べて書いたものがその著『歴史』(Historiai)である。ヘロドトスはこの「historia」という言葉をそれまで一般に「調査・研究」の意味に使われていたのを「歴史の調査・研究」の意味に限定した。ここから「history」が始まる。

 歴史学においてヘロドトス以来、調査と研究が学問の基本である。このように調査と研究は車の車輪のようなもので、両者がバランスよく機能しないといけない。私が最も尊敬し、学問的に強く影響を受けたのが木村重信(『木村重信著作集』全八巻、思文閣出版)である。木村は、1956年にヨーロッパの旧石器時代美術遺跡をオートバイで踏査した以来、生涯に渡りアジア、アフリカ、オセアニア、アメリカで、民族美術に関する数多くのフィールド・ワークを行なってきた。特に、197678年の大サハラ地域、1985年のオセアニアと南アメリカにおける調査は、大がかりな総合文化調査であった。地中海のアルジェから南下して、ナイジェリアのラゴスに至り、さらにエティオピアのアデイス・アベバまで、約25000㎞の砂の道を自動車で走破し、南太平洋の島々をしらみつぶしに船や小型飛行機で駆けめぐった。

 歴史の記述は、日常の出来事を日常の言葉で語る普通の記述であるから、それを読むのに特別な知識は必要ないが、それをまとめるにはそれなりの技術がある。発掘の仕方、碑文や古文書の解読、史料の判別、年代の測定等々、どれ一つとってみても専門家でなければできない技法がある。しかしこれは具体的に対象に即して練りあげられた実際的な知識だから、その方法は対象によって全て異なる。歴史遺産、日本史、アジア史、アメリカ・ヨーロッパ史の間でそれぞれ違う。古代史と中世史とでも違う。歴史遺産研究の方法は研究者各自がそれぞれ対象について実地に教わり、覚え、経験を積んで修得するより仕方がない。歴史遺産コースでは「百聞は一見に如かず」ということわざのように、それぞれの対象について実地・実物に教わり、覚え、経験を積んで修得することを大切にする。

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