2019.12.31
講演会
かつて、日本における古代エジプト史への関心を飛躍的に高めたのは、川村喜一、吉村作治の師弟コンビを中心とする古代エジプト「マルカタ遺跡」の発掘(1974年)でした。川村氏が早世したあと、吉村氏が唯一無二の存在として、積極的なテレビ出演や平易な読み物の執筆にも力を割きながら古代エジプト・ブームを華々しく盛り立てる一方、手堅い学問的研究と骨の折れる大部の翻訳書出版などによって、言わば「ピラミッド」の土台部分を支えたのが、近藤二郎、吉成薫、内田杉彦といった研究者たちでした。
このうち近藤氏にはすでに以前に本学でご講演をお願いしたことがありましたが、今年度は永年にわたって総合歴史学科の集中講義で大変お世話になっている内田杉彦先生に、改めて公開学術講演会の場でもお話しいただくことができました(2019年12月7日)。内田先生は新潟市の明倫短期大学にお勤めで、啓蒙書『古代エジプト入門』(岩波書店)や、『大英博物館 古代エジプト百科事典』(原書房)、『古代エジプト神々大百科』(東洋書林)、『図説 古代エジプト人物列伝』(悠書館)のような分厚い、あるいは大判の翻訳書を数多く上梓されています。
今回のご講演のテーマは「古代エジプト美術を〈読む〉」というもの。内田先生の著作や講義にはつねに「総合者」(synthesist)の学風が感じとれるのですが、このたびも古代エジプト美術に関するあらゆる側面がほとんど漏れなく解説されました。美術は「宗教」と不可分の関係にあり、鑑賞を主目的としない「実用品」であること、「規範」に制約され類型的に表現されるため、主題である神々や王や人間も顔は横顔、目と肩は正面向き、胴体と両足は横から見た形で表されること(非現実的で不自然な姿なのに不思議に違和感がない!)、規範の制約にもかかわらず工房の親方層が一定の作風や制作の喜びやプライドをもっていた可能性があることなどが、豊富な図像史料の例示とともに語られました。
以下に、聴講者や出席学生の感想の一部を紹介しておきましょう。
・「エジプト旅行を考えていましたので、よい機会でした。先生のご本を県立図書館で見てみたいと思っております。ありがとうございました。」(※学外からお越しの方)
・「今日の講義を聴いて古代エジプト史について興味がわき、内田先生の著書やその他の研究書等で勉強してみようと思った。」
・「ふだんの授業の1時間半は長く感じますが、今日のそれはとても短く感じました。」
・「平生は自分が勉強しない分野だったので面白かったです。以前美術館でエジプト美術展を観たときは説明文を読んでもよく分からなかったのですが、今回の講演会でなるほどなと思うところが多く、とても勉強になりました。」
・「死が近くにあったからこそ〈次の生〉について考え、このような宗教観〔や美術〕になったのだなと納得しました。」(※当時の平均寿命は20~40歳)
ざっと100人ほどの学生、一般の聴講者、教員などが講演を聴いていたようです。聴講後の感想を丁寧に書いてくださった皆さん、どうもありがとう。また1、2年生の学生諸君は、3年次から履修できる内田先生の夏季集中講義「ヨーロッパ・アメリカ史講義1A」をどうぞお楽しみに!
(文責:櫻田)