就実大学 人文科学部 総合歴史学科

2019.10.24 

【おすすめ!この1冊vol.003】中島京子著『夢見る帝国図書館』の紹介

教員の活動

【書誌情報】中島京子著,2019,『夢見る帝国図書館』文藝春秋.

 

総合歴史学科 准教授

松崎 博子

 『小さいおうち』(文藝春秋 2010年)などユーモアに富んだ美しい文章でさらりと、でも奥深く、ジェンダーや家族を描かれる中島京子さんの新刊は「帝国図書館が主人公の、帝国図書館の歴史。帝国図書館が樋口一葉に恋をしたり、図書館に動物園の動物たちが訪ねてきたりする小説」(p.337)です。以前、東京タワーが主人公の小説『眺望絶佳』(角川書店 2012年)を書かれたこともありますが、それにしても図書館の歴史小説とは奇想天外です。

 帝国図書館は現在の国立国会図書館の前身で、「永井久一郎が東京書籍館の蔵書票に『ペンは剣よりも強し』と高らかに印刷させて以来、文明開化を担い、広く万民の知識欲を充たし、国威発揚的な国策からは距離を置いて、リベラルアーツを支え」(p.204)ました。

 明治政府は「近代」国家の仲間入りを果たすべく「文明」社会の証として、「活字」信仰普及のため私設ではなく公共のlibraryを設置し、近世の文庫と近代的なlibraryの相違を強調するために書籍館や図書館という新語を生み出し、作家、学生、学者など近代国家の市民に公共の読書空間を提供したのです。

 ジェンダーや家族をテーマとする中島京子さんが、なぜ図書館の歴史を取り上げたのか。それは、図書館が万人の知識欲を充たし、ジェンダーの源である社会規範を通時的共時的に相対化し、普遍的価値の追求を通して、家族から刷り込まれる価値観や、地域および時代の社会規範を乗り越えることを可能にするからだと思います。

画像は出版社HPより引用

戻る