就実大学 人文科学部 総合歴史学科

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2019.09.11 

【おすすめ!この1冊vol.002】小原克博著『一神教とは何か キリスト教、ユダヤ教、イスラームを知るために』の紹介

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【書誌情報】小原克博著,2018,『一神教とは何か キリスト教、ユダヤ教、イスラームを知るために』平凡社新書.

 

                             総合歴史学科 講師

若見 理江

 世界各地で起きているテロのニュースを耳にすると、キリスト教やユダヤ教、イスラームといった「一神教」は他者に対して「排他的」であるという印象をもつかもしれない。これに対し「多神教」は、さまざまな神を認めるという点で「寛容的」であるように見える。

 こうした一神教と多神教という対比は、日本文化の特性を指摘するさいにも用いられ、多神教に属する日本は、宗教に寛容な社会であるとしばしば説明されてきた。しかし、本当にそうだろうか。本書は一神教の特性を明らかにすることによって、「一神教=不寛容、多神教=寛容」という図式を掘り崩し、一神教と多神教のどちらが優れているかという二者択一に陥ることなく、「寛容の文化」を目指す試みである。

 著者は「寛容の文化」を育むことは「憎しみの文化」と向き合い、それと戦うことと同義であるとする。「憎しみの文化」とは、「異質な他者」を際限なく生み出すシステムであり、「私たち」と「彼ら・彼女ら」という境界線を生み出す文化である。「異質な他者」を単純化して描き、ステレオタイプなイメージを与えようとする「憎しみの文化」に抗うために必要なのは、著者によれば、「異質な他者」の実像をできるかぎり多様に伝えることである。

 日本社会にとって、本書のテーマである「一神教」こそ、まさしく「異質な他者」であろう。本書では、一神教の基本的な考え方や戦争についての考え方が、キリスト教、ユダヤ教、イスラームの違いを踏まえつつ説明され、また、現代世界における課題として「政教分離」の問題が取り上げられている。本書は、「一神教=不寛容」という単純化されたイメージを改めてくれるだけでなく、「憎しみの文化」に抵抗する手段を私たちに与えてくれるだろう。

画像は出版社HPより引用

https://www.heibonsha.co.jp/book/b341523.html

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