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リレーエッセイ「心理学とわたし」桑原晴子先生

2023-06-07

教育心理学科 桑原 晴子(臨床心理学)

 

心理学にいつ関心を持ったか,それは私にとってはなかなか答えにくい問いになります。幼いころ,何度も不思議な夢を繰り返して見ていたことがあり,夜眠っている間に,昼間には出会ったこともない人や風景に出会っている体験にこころ惹かれていました。また,目に見えない世界への関心を持つようになったのが小学校低学年の頃でした。ギリシャ神話やエジプト神話など,様々な国の神話に魅了され,この世ではない世界で起こっている物語を何度も繰り返し読んでいました。やがて,思春期に入り,夢の力がさらに強まり,一方で日常の学校生活を送りながら,同時にもう一つの世界に自分が生きていることを強く実感するようになりました。ですが,その時の私は大学の進路として心理学ではなく,宇宙物理学というサイエンスを目指していたのが面白いところです。心理学は魅力的であるけれども,どこか直面するのがこわいものでもあったのだろうと思います。

 

そんな時に出会ったのが河合隼雄先生の『影の現象学』(1987,講談社学術文庫)という本でした。この本は,ユング心理学の「影」という概念を通し,もう一人の私,無意識について考えさせてくれるものでした。この本を読み終わった時,自分の人生が全てつながっていくような,不思議な感覚を感じたのを覚えています。そして,今その道をたどって,ユング心理学に関心を持ちながら,臨床心理学の教員となり,公認心理師・臨床心理士の養成に携わっています。

 

臨床心理学は,わたしではない「他者」に出会う学問,そして,その他者に出会う中で「わたし」について考える学問だといわれます。人生のプロセスのなかで,様々な他者と出会うほど,臨床心理学の魅力は深みを増していくようです。そして,この絶え間ない学びの道がどこにたどり着くのか,楽しみにしながら日々を過ごしていきたいと思います。