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総合歴史学科授業・課外研修など

2017年度 優秀卒業研究発表会(2018年1月27日)

2018-01-29

2018年1月27日(土)午前11時から、本学S101教室で、総合歴史学科恒例の「優秀卒業研究発表会」が開催され、学科生40名ほどと学科教員8名が参集しました。研究指導をおこなう教員たちから推薦された4年生の代表者5名が、各自の卒業研究の内容を15分の制限時間で発表して学問的意義を説明、プレゼンの模範を示し、後輩たちへ良き刺激を与えてくれました。

 

今年度の発表者研究題目は、発表順に以下のとおりです(かっこ内は、所属ゼミナール)。

 

有川 祥紀(福田ゼミ) 「異端審問の虚像と実像についての一考察」
小林 豊(井上ゼミ)

「現代インドの社会変容と女性への暴力

―インド北西部における現状からの一考察―」

田坂 浩士(渡邉ゼミ) 「漢代における対羌政策 ―懸泉置漢簡からみた辺境防衛―」
津下 晏奈(福田ゼミ) 「中世ヨーロッパ音楽の歴史」
長瀬 優(福田ゼミ) 「ヨーロッパにおける動物の象徴性」

 

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有川発表は、異端審問において、残虐な拷問や厳しい刑罰が無慈悲に執行されていたというイメージは後世の文学作品などによる虚像であり、実際の異端審問では規範に則って厳格に手続きをし、慎重に審理が進められたことを解説し、誤った虚像を正すべきであると強調しています。

小林発表は、「名誉殺人」に象徴される女性への暴力について、とくにインド北西部の事例を考察したものです。女性への暴力の問題は伝統的・後進的な社会の問題であり、近代化とともに解決されていくという通説的な解釈は適切でなく、経済の発展などによる社会の急速な変化、既存の有力カーストや農村部の地位の低下などに危機感を持った人々が共同体の連帯を崩す若者に対して「名誉殺人」をし、女性への抑圧を強めるのではないか、という重要な指摘がなされました。

田坂発表は、漢王朝に大きな影響を与えた羌(甘粛・青海省一帯に居住した周辺民族)に注目して、漢代の異民族支配や辺境防衛の実態を解明しようとしたものです。近年の出土資料である「懸泉置漢簡」の解読をつうじて、漢代の辺境防衛は民政と軍事の両面で成り立っていたが、とくに護羌校尉を長官とする組織が担った平時の民政面での政策が重視され、対羌政策の基本方針となっていたことを明らかにしています。

津下発表は、中世カトリック教会の代表的な聖歌であるグレゴリオ聖歌について考察し、東方教会の聖歌との対比などをつうじて、その特徴を明らかにしたうえで、キリスト教と音楽には密接なかかわりがあり、教会音楽の整備とともに西ヨーロッパ世界で音楽が普及・発展していったと結論付けています。

長瀬発表は、紋章などに登場する動物のシンボリズム(象徴性)に注目したもので、ヨーロッパでは熊が動物界の王であったが、異教的な熊を嫌った教会がライオンに肩入れし、12世紀から熊の権威が失墜、ライオンが百獣の王となったこと、ドラゴンが聖人と対決する邪悪な存在とされたことなど、興味深い具体例によって動物の象徴性の利用について解説しています。

いずれも優れた学びの成果ですが、アジア史の発表をした2名は4月から関東地方の大学院へ進学することになっており、発表内容も水準の高いものでした。今後の学問的成長を期待しております。

 

 

(文責 福田)