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就実公開講座後期第1回 令和元年9月7日

2019-09-18

「マーケティングをめぐるグローバル競争 ―モノづくりとの関係から―」

 

 加賀美 太記 (経営学部 経営学科 准教授)

 

70年代から90年代にかけて世界市場を席巻した日系エレクトロニクス企業に代わり、00年代以降は韓国・中国・台湾など東アジア系のエレクトロクス企業が著しく台頭した。なぜ、高い技術を持つとされた日系企業が低迷し、東アジア系企業は成長できたのか。背景となった、モノづくりとマーケティングをめぐる世界的な競争構造の変化を紹介しつつ、今後のマーケティング競争における焦点を考えたい。という観点で講演が進められた。 

Japan as No.1 と言われた1980年代の日本の家電産業は、米国企業からのOEM受注を通して技術を蓄積するとともに、米国市場を対象とした地道なマーケティングによって成長した。ところが、1990年代以降は日米欧の先発ブランド企業と後発企業とで国際的な分業体制が確立し、これらがグローバルに展開しながら発展してきた。とくに後発の東アジア企業が成長を遂げることができた背景を、台湾のICT企業を例に検討した。 

注目したのはパソコン産業である。スマートフォンやタブレットの普及に押されているとはいえ、ICT産業にとって変わらずパソコンは重要な製品である。このパソコン市場では、近年、東アジア企業が存在感を示している。とくに台湾系企業はノートパソコンの生産量で世界の90%以上を占めている。生産だけでなく、販売面でもブランド力を伸ばした企業がある。その一つがASUSTek(エイスース)である。同社は1990年設立と遅いが、マザーボードの出荷は世界トップの企業である。加えて、ネットブックを開発・販売することで、インターネットの普及と高速無線通信の低価格化を背景とした需要に見事に捉え、販売台数世界トップ10に躍り出た。ネットブックのような革新的製品開発を重視していたことがエイスースの特徴だと指摘されるが、同時に実店舗販売経路と低価格プロモーションの成果とも言い得るだろう。 

もう一社はACER(エイサー)である。2000年代のIT不況時を契機に、他社の影響を受けやすいOEM/ODM事業を分社化した同社は、製品については模倣戦略と低価格政策を徹底するとともに、チャネル政策に注力した。世界各国・各地域に代理店・量販店を指定して、販売を全面的に委託し流通業者経由を重視するだけ手なく、販路を確立していた企業に対してもM&A政策を実施して販路を拡大することで販売数量を大きく伸ばしてきた。  

今回の例で示した企業の成功例は上記の理由であろう。しかし、これらのビジネスモデルが将来にわたって必ず通用するとは限らない。従来は技術革新か販路の確立で成功を収めることができたが、価格競争を前提とした差別化競争、代替品の普及、新興ブランド企業の登場など新しい競争環境への対応が求められていくであろう。