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総合歴史学科教員の活動

【研究こぼれ話vol.002】ニューオリンズ見聞録(続報)

2019-08-19

総合歴史学科 准教授

松崎 博子

■ 図書館協会年次集会

 昨年20186月アメリカ合衆国ルイジアナ州ニューオリンズ市へ出掛けました。アメリカ図書館協会(American Library Association)の年次集会に参加するためです。協会は専門職ライブラリアンをはじめとする図書館関係者が所属する専門職団体で,集会は全米各地を巡ります。アメリカ南部の都市ニューオリンズへの憧れもあり,また,基調講演を務めるのがミシェル・オバマ氏と知って集会参加への意欲が湧きました。

 ミシェル・オバマ氏の夫バラク・オバマ前大統領(民主党選出)はリベラルな政治家で,オバマ・ケアと呼ばれる悉皆保険制度を実現したことで知られます。オバマ・ケアによりアメリカの福祉国家リベラリズムは極致に達しました。その反動として保守層の支持を集め,登場したのがドナルド・トランプ大統領(共和党選出)です。アメリカではつねに,保守とリベラルがせめぎ合い,極端な揺り戻しを繰り返しています。

 基本的にリベラルなスタンスをとる図書館関係者の集会へ,初の自伝"Becoming"(ペンギン・ランダムハウス,2018年秋刊)の販売促進を目的としてやって来たオバマ氏は半生を振り返り,労働者階級の出身であること,幼少期の読書経験,夫と子どもたちとの日々の生活など,議会図書館館長カーラ・ヘイデン氏を聞き役にウィットに富んだトークを展開し,聴衆を魅了しました。

 集会の会場となったニューオリンズ・コンベンション・センターの1階展示大ホールには,大小のブースが設置され,図書館,大学,出版社,図書館関連団体,企業が出店し,商品やサービスの販売,活動の広報をしていました。出版社のブースでは作家と交流することができました。他方,コンベンション・センター上階では,会議室ごとに各種委員会,ラウンドテーブル(円卓会議)が開かれていました。話し合いはオープンで,傍聴は自由に認められていました。 

 

 

■公共図書館

 図書館協会年次集会へ参加する傍ら,ニューオリンズ市内の公共図書館を見学して回りました。市立図書館本館(Main)は,市電,路線バスの行き交う大通りに所在し,大木に覆われた建物は硝子張りで,広い吹き抜けからの採光も十分に,開放感に満ちていました。壁には,地元アーティストたちによって制作された巨大な絵画やオブジェが掛けられ,人目を引いていました。1階には,雑誌新聞,情報端末,アフリカ系アメリカ人資料が配され,利用者で混み合い,活況を呈していました。職員は穏やかな様子で利用者に対応していました。2階には児童資料が,3階には郷土資料が置かれていました。郷土資料はクレオール(混淆)文化を重点的に収集していました。

 自身のルーツを探る資料も豊富に備えられ,たとえば先祖の婚姻関係を示す索引カードが目録ケースに並べられていました。また,夥しい数の文書がバーチカルファイルへ垂直に納められていました。そこに見えるのはこの土地に生きた人びとの歴史です。本館建設(1958年)に際し図書館をテーマとした作品の制作を地元アーティストたちへ依頼した文書,それに対するアーティストたちの返信,手紙に認められた図書館への思いなど。後世の利用を見据えて,何でもアーカイブしておくアメリカ人の精神に改めて感心しました。

 大規模な本館が調査研究に役立てられる一方,地域住民が足繁く通えるよう郊外へ設置された小規模な図書館(Branch14館)は,読書,学習,交流の場として機能しています。電子書籍,電子ジャーナルの普及したアメリカでは,図書館ホームページを経由すれば,自宅にいながらにして情報の入手は可能な状態が整っていますので,わざわざ足を運ぶ必要はないようにも思われますが,それでもなお地域住民は近隣の図書館を利用しています。概して温かい雰囲気に包まれたアメリカ公共図書館は,あらゆるひとに開かれた安心,安全な場所として社会的に認識されています。

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