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教育心理学科その他

リレーエッセイ 「心理学とわたし」

2018-12-05

教育心理学科は、養護教諭や特別支援学校教諭の養成課程のある教員養成系学科ですが、同時に、認定心理士資格が取得できる教育系の心理学科でもあります。 

本学科において心理学は、養護と特別支援という2つの領域を仲立ちする学問領域と位置づけられます。心のケアもできる養護教諭、心理療法の知識を備えた特別支援学校教諭が育ってほしいと考えています。 

もちろん、大学院に進学し臨床心理士養成課程を修め、心理臨床の専門家として活躍することも期待しています。というわけで、教育心理学科の学生は、何らかの形で心理学とかかわりますし、学科所属の教員も、専門こそ違いますが、多かれ少なかれ心理学と接点をもっています。 

そこで、在学生や高校生が心理学により興味をもったり、教育心理学科への関心が深まることを期待して、学科教員がそれぞれの立場で心理学とのかかわりについてリレーエッセイの形で語ることにしました。 

「心理学とわたし」

永田 忍

 私は就実大学に着任するまで、長年心療内科の臨床心理士として働いていました。担当していた主な業務は、精神症状で困っている患者さん(=クライエント)への心理療法を実践することでした。その経験を通して今現在の私が感じていることを書きたいと思います。

 私は、『精神症状というものは、今を生きるためにクライエントが、必死にこころのバランスを取ろうとして、その結果起こっている現象(状態)である』と思っています。

 私たち人間は、生まれもった特性や、自分が置かれた空間で生きていくために、意識的に(無意識的に)身につけた物事の考え方や行動があります。これらは『変えることができるもの』と『変えることができないもの』があります。しかし、現代社会が便利になったことで、私たち人間は『全ての物事の考え方や行動は変えることができる』と錯覚している感が否めません。

 

 臨床心理士や公認心理師といった心理臨床家の役割は、目の前のクライエントの『変えることができるもの』と『変えることができないもの』を見極めつつ、少しでも生きやすくなる術を、クライエント自身が見つけていく過程をサポートすることだと考えています。

 私は、心理療法の1つの技法である認知行動療法を専門としています。心理療法は認知行動療法以外にもたくさんの種類があります。しかし、これら全ての心理療法は、有効に働く可能性があっても、単に技法にすぎません。そのことをふまえながら、必要な知識や技法を一生学び続け、身につけていこうとする姿勢が大切です。

最後に、渡辺雄三先生が書籍で述べている『心理療法家の役割』について記しておきたいと思います。これは、私が常に心の中で大切にしていることです。

「セラピストは、クライエントを悩ませる問題や症状が少しでも軽減するよう全力を尽くさなくてはならないが、しかし、完全になくすことを強迫的に目指すのではなく、クライエントが何とか抱えていられる程度に、あるいは上手く抱えていられる程度に手助けしたほうがよい」

 今回書かせていただいたことを常に意識しながら、目の前のクライエントに関わってゆけるような心理職の専門家が、就実大学からたくさん巣立っていくことを願っています。

 

私が認知行動療法を実践する上で最も基本かつ大切だと思っている書物です。