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教育心理学科その他

リレーエッセイ 「心理学とわたし」

2018-11-21

教育心理学科は、養護教諭や特別支援学校教諭の養成課程のある教員養成系学科ですが、同時に、認定心理士資格が取得できる教育系の心理学科でもあります。

 

本学科において心理学は、養護と特別支援という2つの領域を仲立ちする学問領域と位置づけられます。心のケアもできる養護教諭、心理療法の知識を備えた特別支援学校教諭が育ってほしいと考えています。

 

もちろん、大学院に進学し臨床心理士養成課程を修め、心理臨床の専門家として活躍することも期待しています。というわけで、教育心理学科の学生は、何らかの形で心理学とかかわりますし、学科所属の教員も、専門こそ違いますが、多かれ少なかれ心理学と接点をもっています。

 

そこで、在学生や高校生が心理学により興味をもったり、教育心理学科への関心が深まることを期待して、学科教員がそれぞれの立場で心理学とのかかわりについてリレーエッセイの形で語ることにしました。

「心理学とわたし」

堀田 裕司

 

私は,大学教員になる以前に民間企業での労働経験がありました。当時は,サービス業で接客の仕事をしていたのですが,その時に味わった様々な体験が私と心理学の出会いのきっかけを築いてくれました。

 

対人サービス業の仕事の中では,お客様との触れ合いの中でやりがいを感じることも多くありましたが,一方でクレーム対応の現場に出くわすこともしばしばありました。クレーム対応の方法について当時の上司から,「一方的で理不尽な言い分だと感じても,まずは,お客様の仰ることにしっかりと耳を傾けなさい」と教えられました。実際のクレーム対応の場面では,私は,お客様が仰る言葉の裏で,お客様が何を訴え,何を求めていらっしゃるのかという視点を常に持ちながらお客様のお話を傾聴していました。

不思議なことに,上司から言われた通りに対応すると,最初は感情的であったお客様が次第に落ち着かれ,問題解決の方向に前進していくことが多くありました。そうした経験を数多く繰り返していくうちに人の話を聴くことや話の聴き方について次第に興味を持ち始めました。そして,話の聴き方などについて自分自身で色々と調べていく中でカウンセリングというものに出会い,その後,「カウンセリングについてもっと深く学びたい」という思いから,心理学の中でも特に臨床心理学の道を歩んでいくことを決意しました。

 

サービス業は特にストレスの多い仕事であるとよく言われます。クレーム対応の他にもお得意先とのやり取りに気を遣うことや,仕事の中で体力を消耗することもあり,当時の私は,日々様々なストレスを実感しながら仕事をしていました。しかし一方で,上司や同僚と助け合い,職場での良好な人間関係を築きながら,様々なストレスに対処できていたことも事実でした。この当時の自分自身の経験から,「たとえ仕事がきつくても,職場の人間関係が良ければそれで救われることが多い」という意識を強く持ち始めました。

 

 

退職後,私は大学に入学し,カウンセリングなどの臨床心理学を中心に学んでいくとともに,「職場の人間関係の改善やソーシャルサポートの向上に着目した職業性ストレスの低減」をテーマとした研究をスタートしました。大学院に進学後は博士課程まで進み,臨床心理士として医療・教育・産業領域の現場に出るとともに,企業労働者を対象とした介入研究などを行い,労働者のソーシャルサポートの向上を目指した研究を積み重ねていきました。現在,産業・組織心理学,臨床心理学を専門とする大学教員として産業ストレスに関する研究活動を行う傍ら,臨床心理士として様々な現場に赴き,カウンセリングや研修等を行っている私の原点は,実は私自身の若き日の労働体験にあるのです。