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人文科学専攻 その他

コラム 授業のひとこま 第7回 美術館収蔵品の調査と展示(1)第3代岡山藩主池田継政が制作した肖像画群

2022-03-15

筆者は現職に就く以前には、林原美術館(岡山市北区)で16年にわたって学芸員を勤めていました。学芸員とは、博物館施設等において資料の収集、保管、展示及び調査研究等の専門的事項をつかさどる職員のことです。ここでは同館在職中に、調査した資料や担当した展覧会などで特に印象に残ったことを紹介していきたいと思います。

第7回 第3代岡山藩主池田継政が制作した肖像画群

浅利尚民(人文科学研究科・人文科学部准教授 日本美術史・日本文化史)

美術館に所蔵されている資料というのは、国宝や重要文化財のように、研究が進んで価値が判明しているものがある一方で、ほとんど研究されておらず世間に知られてもいないものもあります。今回は後者に属する、第3代岡山藩主の池田継政(1702~1776)が制作した肖像画群との出会いをご紹介します。

池田継政は父綱政(岡山後楽園を築庭した藩主)の後を継いで藩主になりました。しかし江戸時代中期~後期の藩主によくあるのですが、一般的に著名とは言い難い人物でした。

しかし関係する資料を調べていったところ、林原美術館だけで約20点、近隣の池田家ゆかりの寺院を含めると実に30点あまりの肖像画が、継政によって描かれていたことが分かってきました。さらに研究を進めていくと、継政は祖先の肖像画を自ら描いて整理していたことや、初代岡山藩主で祖父にあたる池田光政を尊敬し、肖像画を何点も制作していたことも分かってきました。特に継政が描いた光政の面貌は、制作された時期によってかなり異なっていることも明らかになってきました。

このような研究成果に基づいて、2010年12月1日から翌年1月16日まで、同館で企画展「画人大名 池田継政」を開催しました。展示資料51件のうち実に約半数が初公開で、これまで知られていなかった新たな継政像を提示できたのではないかと思っています。展示が終わってから10年以上が経ちましたが、今では池田継政が肖像画を制作していたことはかなり知られるようになりました。例えば最近では、2018年に岡山県立博物館で開催された特別展「岡山ゆかりの肖像」でも、継政が制作した肖像画が紹介されています。

このように、知られていない資料を発見・研究して新たな見解を提示し、それが社会に認知されていくことは、私たちにとっては何物にも代えがたい喜びであると言えます。

参考文献
石坂善次郎編『池田光政公伝』(侯爵池田家、1932年)
浅利尚民「池田家歴代肖像画と池田継政」(『林原美術館紀要・年報』4号、2009年)
平成30年度特別展『岡山ゆかりの肖像』(岡山県立博物館、2018年)