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表現文化学科 講演会・集中講義等

H30年度 表現文化学会総会・公開学術講演会が開催されました。

2018-12-04

日程:2018年12月1日 ~ 2018年12月1日

 12月1日(土)に表現文化学会の総会及び学術講演会が本学R601で開催されました。今年度の学術講演会は、日本語学者で大阪大学名誉教授の小矢野哲夫先生を講師にお招きしました。講師の小矢野哲夫氏は、大阪外国語大学教授、大阪大学大学院教授を経て、現在は神戸学院大学教授として教鞭をとっておられます。ご専門の現代日本語文法、特に副詞の研究で多くの業績を上げられていますが、それだけではなく、若者言葉、流行語、言葉の性差、など言語と人間・社会との関わりについても多くの論文をご発表になっており、文法分野に問わず幅広く活躍されています。

 今回の演題は「日本語研究と用例採集」です。日本語研究で非常に重要な作業である用例採集について、長年培ってこられた経験をふまえて、お話してくださいました。

 お話は、用例採集に「動く日本語の観察」と「新聞、雑誌、書籍等から使用例を採集する」方法の2つがあるというお話から始まりました。言語は常に変化し、一定でなく、動くものだとして、その動きを特に新語や流行語に注目して、言語をとらえる方法が「動く日本語の観察」です。「お台所する」「包丁する」「女子大生する」「主婦する」「都会してます」といった表現を例に「動く日本語」を紹介されました。「する」といった動詞は、本来は動きを表す名詞につくものですが、それが「台所」「都会」といった場所、「女子大生」「主婦」といった職業、「包丁」といった道具を表す名詞につくようになります。このような本来とは異なる結びつきをもつような語を、ありえない、規範的ではないと切り捨てるのではなく、なぜそのような結びつきをもつのか、その際にどのような意味を表すのか、なぜ使われるのか、といったことを考える重要性を説かれました。

 つぎに、「新聞、雑誌、書籍等から使用例を採集する」ことの大切さ、特に実際に使用された言語の使用例である実例を集めることの大切さを、「配慮が足りない」という表現に「すぎる」がついた実際の例「配慮が足らなさすぎる」という表現をとりあげ説明されました。「配慮が足りない」という表現に「すぎる」がつく例としては、「配慮が足らなさすぎる」の他に、「配慮が足りなさすぎる」「配慮が足らなすぎる」「配慮が足りなすぎる」なども考えられます。これらの表現がどのようにどの程度使用されているのかは、頭の中だけで考えることは非常に困難です。この答えを得るためには実際に使用された日本語を調べるしかありません。1億語の実例を集め検索できるようにした電子コーパスで調べた結果、実例としては「配慮が足りなすぎる」が1例、「配慮が足らなすぎる」が1例で、合計わずか2例しかないという結果となりました。氏はこのような例を示し、現代語であっても、我々が知らないことが多くあり、知らない表現がどのように使用されるのかを考えるには、実際の使用例を採集することが不可欠であると説かれました。

 さらに氏は、言語分析には、新聞、雑誌、書籍等の使用例、つまりは文字情報を使用するだけでは、不十分であると説かれます。「まさか」という副詞をあげ、辞書の意味記述「強く否定するする応答語」が文字情報だけではどのようなことを意味するのか十分にはわからないことを説明されました。「まさか」は、ドラマやマンガといった視覚、音声情報を利用すると「まっさかぁ」「まーさーかー」「まさかぁ」など様々な口調があり、それぞれ発話に伴う表情(「汗をうかべる」「赤面する」)に異なりがあることがわかります。さらに分析を進めると、明るい声や表情では「発話内容をあり得ないことと捉え、笑い飛ばす」、暗い声、汗を浮かべる表情では「相手の発話内容を否定するが必ずしもあり得ないことではないという疑念を含んでいる」のように、口調や表情とその語の意味や用法とか関連し結びついていることがわかります。氏はこのことを、実際の発話の映像を流しながら説明され、聴取者は納得の表情を浮かべていました。

 氏の講演は、言語研究が次のステージ、つまりは文字情報だけでなく、音声情報だけでなく、視覚情報をも考慮し、言語をトータルに把握し、分析しなければならない段階にきていることを示すものでありました。新しい言語研究の方向性を示す講演であったためか講演後会場から活発な質問が寄せられました。

 貴重な講演をしてくださった小矢野先生と会場設営などを手伝ってくれたスタッフと学生の皆さんのおかげで非常に盛況な会となりました。最後にお礼を申し上げます。