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教育心理学科 その他

リレーエッセイ 「心理学とわたし」 第11回・第12回 

2018-08-26

教育心理学科は、養護教諭や特別支援学校教諭の養成課程のある教員養成系学科ですが、同時に、認定心理士資格が取得できる教育系の心理学科でもあります。

 

本学科において心理学は、養護と特別支援という2つの領域を仲立ちする学問領域と位置づけられます。心のケアもできる養護教諭、心理療法の知識を備えた特別支援学校教諭が育ってほしいと考えています。

 

もちろん、大学院に進学し臨床心理士養成課程を修め、心理臨床の専門家として活躍することも期待しています。というわけで、教育心理学科の学生は、何らかの形で心理学とかかわりますし、学科所属の教員も、専門こそ違いますが、多かれ少なかれ心理学と接点をもっています。

 

そこで、在学生や高校生が心理学により興味をもったり、教育心理学科への関心が深まることを期待して、学科教員がそれぞれの立場で心理学とのかかわりについてリレーエッセイの形で語ることにしました。

「心理学とわたし」

桑原和美(舞踊教育学)

私の専門分野はダンス・表現運動なので、いわゆる心理学という学問からは少し離れた位置にいます。しかし心理学が人や生きものが、どうしてそのように考え・行動するのだろうという問いに答えを見つけようとする学問であるならば、原始の時代から現代に至るまで人類の存在と共に続いてきた、自分の身体を使って心の内面を表現するダンスの力や魅力について考えることも幅広い心理学の一端に繋がると言えるかもしれません。

ダンスと言っても、その種類や目的、また動きの質は多様ですから、ここでは先日偶然テレビで目にした、あるダンスから思い巡らせたことを書いてみたいと思います。

近年のダンスブームは、長い間ダンスの研究や教育に携ってきた私にとっては大変嬉しい現象であることは言うまでもありません。私が大学でダンスを始めたのはウン十年も前なので、当時はダンスを踊るとか研究するのは、とても変わった(好意的な言葉ではユニークな)人と捉えられていたと思います。ところが学習指導要領で表現運動にリズム系ダンスが取り入れられ、みんなが子どもの時からリズムに乗って身体を動かす楽しさを体験することで、ダンスが身近な身体活動になり、社会におけるダンスの認識は大きく変わりました。加えて、そうしたダンスの魅力を効果的に伝えるメディアの力には改めて感心するばかりです。テレビやインターネットでも、各種のダンスドリル大会や、独創的で高度な技術を競い合う番組をよく見かけます。また某スポーツ飲料のTVコマーシャルでは、制服を着た数千人の人たちが一つの音楽に合せて同じ動作で一斉に踊るシーンが映っていましたが、何度見ても大集団がシンクロする場面は圧巻で、若さ・汗・熱を直球で伝える映像制作には思わず拍手したくなります。ダンスには、ソロやデュエットから、数十人、数百から数千人、数万人まで様々な規模があります。一人ひとりが異なった動きをするものもありますが、上記のシーンのように、集団でしかも同じリズムと繰り返しの動作で踊られるダンスには、踊る人に陶酔、恍惚、一体感と言える不思議な心理状態が生まれてきます。「息が合う」という言葉がありますが、大勢の人の呼吸が合った身体は動いている人だけでなく、それを見ている人にも同じような感覚をもたらすという二重に不思議な心理状態を呼び起こすのです。こうした集団の心理が東西を問わず、遠い・近い歴史の中で、政治や宗教等において利用されてきた事実は枚挙に暇がありません。ますます多くの人がダンスの魅力と力を体験することで、人は何故、踊ることに魅せられ、踊る人に魅せられるのかという、人の心理に関わる根源的な問いも解明されていくことを期待せずにはいられません。

 

「心理学とわたし」

森村 和浩

私は,大学生の時に運動生理学を学び,運動によるからだの様々な適応の不思議に魅了され大学院へ進学しましたが,大学時代からの恩師とのやりとりの中で「心身と身心」の議論をすることがありました。なぜそんな問いを?と当時は思っていましたが,からだと心のことを深く考えることは極めて重要なことだと思うようになりました。さてさて,からだと心の関係性を考えると,どちらが正しいのでしょうか?私の授業でこころと身体を表す二字熟語は?と学生に質問すると,9割以上の学生が「心身」 と答えます。勘ぐって「身心」と答える学生も中にはいますが・・・・・。皆さんはどうでしょう。

どちらも間違いではありませんが,どのような関係性があると考えるでしょうか。

心身は,江戸時代前までは「身」を前に置く語順である「身心」を使っていたと考えられています。なぜ「身」を前に置いたのでしょうか。その理由は,鎌倉時代初期の道元という禅僧の教えに由来しているそうです。心を安定させるために身を整える必要があると教え説いたのです。身を大切にしていたのですね。また,教育者である福沢諭吉もまた「先ず 獣身をなして後 人心を養え」と説いています。なぜ,こころを養うために先ず身を大切にしなければならないと考えたのでしょうか。先人たちは何を感じ取っていたのでしょうか。今となっては聞くことはできませんが,科学の力でその答えを導き出せるかもしれません。

からだと脳の関係については大学院の授業で脳科学の第一人者の先生の講義を今でも鮮明に覚えています。それは,ジョギングなどの有酸素運動を行うと,一見走ることとは全く関係のないと思われる脳領域が活発に働き始め,頭の働きが良くなるという驚くべき発見でした。さらにその運動を中止するとその効果は消失してしまうのです。つまり,運動によって頭の働きが良くなっていると考えられるのです。「からだを動かし」「走ろう」と指令を出しているのは言うまでもなく脳です。しかし,ジョギングを行うことによって,逆に脳の活動を活性化させている。「からだを動かす」という指令を出す脳自体の活動を,身体を動かすことによって,さらに活性化させているのです。「運動が脳を?なぜ??」と、とても不思議に思いながら大変わくわくして興味を持ちながら,講義を聴いたことを今でも覚えています。

現在では,運動や高い体力を維持することは,肥満をはじめする生活習慣病に対して高い予防効果があることが科学的に証明され,広く知られるところとなっています。さらに近年では,前述の内容含め運動自体が脳の成長やその働きにも関与していることが明らかになりつつあり,健全な脳の育成,そして,鬱や認知症などといった脳のトラブルに対しても,積極的な運動が勧められるようになってきています。

まさに先人たちが感じ取っていた身から心への関係性,心のために身を大切にする理由が科学的に明らかにされつつあるのです。

写真はからだと脳(心)の関係を書いた恩師の著書